日本茶AWARD出品者(受賞者)へのZoomインタビュー 第2回目

zoomインタビュー集合写真第二回

2020年10月26日 19:00〜21:10 開催
聞き手:竹内(日本茶AWARD東京事務局)
    本間(TOKYO TEA PARTY部長)
    奥富(日本茶インストラクター協会東日本ブロック長)

 

●自己紹介(敬称略)

お茶処しまだ
お茶処しまだ

長崎県でお茶処しまだというお茶屋を経営しております嶋田祐子と申します。日本茶インストラクターでもございます。二度目の出品をいたしましておかげさまで2019年にプラチナ賞を受賞しました。
[プラチナ賞受賞] 
  2019 八女伝統本玉露「絶品」

 

株式会社松北園茶店
株式会社松北園茶店

京都の宇治で松北園茶店という茶問屋の代表をしております杉本と申します。いろんなところに顔を出させていただいているのですけど、日本茶インストラターだけは登録だけで何もしていません。(笑)
[プラチナ賞受賞] 
 2015 普通煎茶
 2016 普通煎茶・玉露
 2017 宇治煎茶最高宝光印、宇治玉露最高宝誉印

 

原田製茶
原田製茶

長崎でお茶を生産しています原田と言います。日本茶AWARDでは何度かお世話になっています。
ありがとうございます。
[プラチナ賞受賞] 
 2018 心茶鬼木みどり
 2019 心茶鬼木みどり

 

株式会社備前屋
株式会社備前屋

埼玉県日高市で狭山茶の産地問屋を営んでいる、清水と申します。産地問屋ですのでお茶の生産はしていないのですが、台湾の烏龍茶に惹かれて釜炒り製の半発酵茶を作り始めて9年目になります。自分が作ったものが第三者にどのような評価を受けるのか知りたくて日本茶AWARDに出品しました。今年の開催がなくて残念がっている一人です。
[プラチナ賞受賞]
 2016 釜炒り茶

 

株式会社丸八製茶場
株式会社丸八製茶場

石川県でほうじ茶を中心に製造販売をしております。丸八製茶場の丸谷と申します。日本茶インストラクターは10期生。昨年あたりから北陸支部の立ち上げを何とかならないかと持ちかけられています(笑)
[プラチナ賞受賞] 
 2018 献上加賀棒茶

 

株式会社宮﨑茶房
株式会社宮﨑茶房

宮崎県の五ヶ瀬町というところでお茶を作っています宮﨑茶房の宮﨑です。普段はお茶の栽培・製造をしています。釜炒り茶を中心に烏龍茶と紅茶も作っています。
一応日本茶インストラクターは持っていると思うのですけど会費がギリギリしか払ってないので登録が抹消されそうな雰囲気になっています(笑)
[プラチナ賞受賞]
 2014 発酵系のお茶
 2017 五ヶ瀬有機釜炒り茶

 

 

●これから日本茶を楽しむとき、香りが重要になるのではと思うのですが、花のような香りを漂わせるための「萎凋」という技術とその香りの可能性についてどう考えていますか?

 

宮﨑茶房
株式会社宮﨑茶房

お茶を作っている時に漂う「花香」が好きで、作り始めました。
「釜炒り茶は釜香とスッキリした味が特徴だけど、それと「萎凋香」がとても合うので、釜炒り茶は萎凋させた方が絶対にいいと思っています。昔から「とめ葉」といって工場で生葉を一晩おいて次の日の朝からつくっています。また宮崎にはいろいろな品種があって、「みなみさやか」もなんですけど「たかちほ」とか「うんかい」とか「やまなみ」とかですね、宮崎の固有品種は釜炒り茶用品種であるんですけど、「萎凋香」がすごくよかったので「萎凋」についてスタッフ皆で研修をはじめました。産地としても「萎凋香」の釜炒り茶をもっと全面に出していって、「釜炒り茶」を全国に広めていけたらなと思って取り組んでいます。

 

丸八製茶場
株式会社丸八製茶場

数年前までは、ほうじ茶を製造するにあたり一般煎茶が合うだろうとまったく萎凋していない原料で作っていました。
「印雑」品種で作るほうじ茶は、独特な花のような香りがするというので、今はこの香りを生かした商品もつくっています。北陸新幹線が開通してから「棒茶」が独り歩きを始めて、ここ5年でかなり広がったので去年から石川県の茶商組合で地域団体商標の取得をすすめ、今年1月に「加賀棒茶」の4文字を地域団体商標にし、石川県全体で守るようにしました。次なるほうじ茶ももっと積極的に探そうと2年前から毎月1日に違ったほうじ茶を出す、ということを製造のメンバー自らに足かせをはめました。そんな動きの中で宮﨑さんともつながることができましたし、清水さんともお話することもできましたし、いろんなことが広がってきたなと感じます。ほうじ茶は香りのお茶ですので、そういった面では釜炒り茶や「萎凋」との親和性が高いと感じています。もっとおもしろい風味を出せる原料を探していけたらいいなと考えています。

 

備前屋
株式会社備前屋

受賞した時に日本茶AWARDは、「萎凋」を欠点としてみないんだなと嬉しく思いました。家業を継いだときに「萎凋香」を教え込まれましたが、品評会では欠点と聞きとても驚きました。
昔は、お茶の葉を摘む能力が製茶の能力を上回っていたので、お茶の葉が一泊だけでなく二泊してしまったものもあったらしいのです。そういったものが「萎凋」とひとくくりにされるけど、「萎凋」ではなくておそらく「むれ香」だったと思います。それが「萎凋香」を欠点だとなった理由なんじゃないかと思うのです。日本茶は、一から十まで揉むという工程で水分を追い出すので、丁寧な方法なのだけれども不合理でもあります。(揉む前に)水分を抜くということは、揉む時間が少なくて済む合理的な製法です。煎茶は萎凋した時の香りの2割か3割が製品にキックバックしてくるのですが、釜炒り茶にするとその3割から4割が残るほど、香りの差があるんですね。そう考えると「萎凋」をやっていると釜炒り茶に移行するのが必然なのかなと思います。宮﨑さんもおっしゃっていましたけど、香りを追求していくと蒸し製は釜炒り製にはかなわない、でも萎凋した緑茶の香りの良さも間違いなくあります。たとえば、蒸し製の萎凋香では飲み終わった後の余韻が強く響き、苦渋味が半減します。煎茶の「萎凋香」をお客様に説明するには非常に難しいけど、萎凋した釜炒り茶を飲んでいただくと香りも味も違うので分かりやすいようです。その後にこれを煎茶にするとこうなりますよ、と説明すると理解いただけます。今、「かぶせ」というものがスタンダードになってきて、うま味成分の多いお茶がかなり大きい柱になっています。「萎凋」というのはそれと逆で、味は二の次で余韻に香りを感じていただくだけで良いと思います。アミノ酸のうま味のお茶が主体になっているのであれば、「萎凋香」がもう一つの柱になってもいいのではないでしょうか。結果的に出来ちゃったという「萎凋香」ではなく、蒸し製でも「萎凋」という工程を施してから製茶することでチャーミングな日本茶ができるのだと考えます。

 

原田製茶
原田製茶

蒸し製玉緑茶をつくっていますけど今まで「萎凋」というものが考えたことはありませんでした。なるべく「萎凋」というか「ムレ香」を出さないように、お茶を摘んだらなるべく早く製造にかかることを念頭においていました。でもやはり芽重型のミル芽を摘んですぐに蒸してしまうと蒸しつゆがついてしまってうまく蒸せないということもあって、最近、生葉を摘んできて半日から12時間くらい寝かせてから製造にかかるというところも出てきて蒸し製玉緑茶も「萎凋香」を生かす農家も出てきている感じはします。でも私は、県や農協の指導もあってなるべく積んで来たら早めに製造にかかるように、鮮度のよい製造を心がけているところです。

 

松北園茶店
株式会社松北園茶店

京都の伝統的な玉露の産地にはもともと生葉コンテナはなく、「玉露は一晩おいて揉むのが常識」と言われていたそうです。たぶん「萎凋」ってもともと日本茶の中ではナチュラルにあるものだったのに、葉傷みをさけようとして鮮度主義が行き過ぎてしまってなくなったということもあるんじゃないかと思っています。昔の新茶の香りがよかったというのは、萎凋しているか萎凋していないかの違いじゃないかと思っています。
「萎凋」は品評会的にはダメと言われながらも、実はおもしろいんじゃないの、というのは私の父先代も言っておりまして。自分も父も特徴のあるお茶づくりを目指して、萎凋に注目して煎茶づくりに取り組んでいました。
「萎凋」や「発酵」、鮮度優先の緑茶などのすべての振れ幅を知ったうえで、それらをうまく掛け合わせて日本茶の多様性をつくっていけたらなと思っています。日本茶AWARDが、カメリアシネンシスの振れ幅をなるべくたくさんの人に知ってもらうきっかけになっていくと良いと思います。
最近、日本茶AWARDに出させていただいて思うのですが、「さえみどり、蒸しグリ、焙煎香強い」ものだけが上位になるようになってしまっているような気がして、そこが次、我々が変えていかないといけないところだと思うんです。
釜グリの香りが強くなるのはまさにその通りで、味を濃くするとにおいが薄くなる、においにこだわると味が薄くなるのは自然の摂理で、そのどれもが大切にしないといけないので、そこのところが育っていくような場になっていくといいと思うし、自分も律してあくまでもブレンドにこだわってやっていきたいと思っています。

 

お茶処しまだ
お茶処しまだ

香りというものはお茶にとってとても大切です。長崎県は今は蒸し製玉緑茶を作っていますが、昔は釜炒り製玉緑茶を販売し、つくっていたわけですね。父が茶問屋をしていた昭和32年だったかな、全国製茶品評会に釜炒り茶を出していて、その頃長崎県では釜炒り茶を飲んでいました。その頃は、お茶は家の周りに植えてある茶の木を摘んで自分で釜で炒って飲む、そんな文化があったんですね。自分がお茶屋を継いだ時も父と様々なバトルをしてきたのですけども、蒸し製玉緑茶になった時、飲みなれていた釜炒り茶の香りがないと言われました。今の長崎のお茶屋も、うま味が多く香りもあるお茶が評価されています。父の時代のような香りの良い釜炒り茶を扱ったとしても蒸し製玉緑茶のように売れていかないこともあります。日本茶AWARDで皆さんのお話を聞いていると、日本茶を飲まなかった人たちが日本茶へ入り込んでいけるような新鮮な香りを作り上げていくことはとても素晴らしいことだと思いました。時代に合う香りっていうのかな。

 

 

●皆さんは、従来の方法にとらわれず、新しい発想と行動力で新しい挑戦をしている印象がありますが、これから人気が出そうな、注目されそうな、これからの日本茶のタイプを教えてください。

 

宮﨑茶房
株式会社宮﨑茶房

「飲んだら元気になるお茶」というのがあって、有機栽培、釜炒り茶なのですけど。
 今研究しているプアール茶。今まで萎凋のときに天日に当てるとかやっていたけど、製茶途中で天日に当てるとか、乾燥させるとか今までやってこなかったけど、やってみるとおもしろくて、できた製品を飲むと体が温かくなったりします。カラダにやさしい感じがします。鉄っぽい香りがするけど、全国でつくられている番茶のようなものを組み合わせていくとおもしろいんじゃないかなと思っています。カラダを冷やさない、温めるみたいなイメージのお茶がくるかもしれないな、と思います。

 

丸八製茶場
株式会社丸八製茶場

なかなか予想するのも難しいですけど、茶業界では多様化が一つのキーワードかなと思うので、それぞれの好みの風味が探せるような種類がまだまだ出てくるのかな、と思います。コロナで人と会うことが制限されている中ではありますが、落ち着いた先には一緒に「お茶を飲む時間」が必要になると思います。今まで効率を重視し、お茶を飲むことが無駄な時間に思われがちだったのですが、うちのテーマのひとつとして無駄な時間をいかに売るかを考えたいなと思っています。「お茶を飲む時間」を発信するために、うちの会社では喫茶空間をつくり、思いっきりゆっくりしてもらっています。お茶を飲むシーンをもっともっと発信して、楽しいだったり、新しいだったり、そんな時間の場がつくれるとどんなお茶でも当てはめていけるんじゃないかと考えています。

 

備前屋
株式会社備前屋

コロナの影響もあって、発酵というものに目が向いており、宮﨑さんがおっしゃるように後発酵茶が一つのキーワードとも思います。ところが関東には番茶文化がなく、残念ながら後発酵茶の魅力が理解できておりません。私が「萎凋」に魅力を感じるのは、作っているときに髪の毛の先まで染まるような鮮やかな香りです。できれば半発酵茶がメインになってくれるといいなと願っています。(萎凋香は)日本の文化ではないのかなとは思ってはいますが(笑)。
それと、いつも思うことは蒸し系のお茶は急須を洗うのに何リットルの水が必要なのだろう?ということですね。
それに比べて釜炒り製は茶殻交換が容易で、ピンセットでつまみ出すことも可能です。今後、緑茶リーフ販売拡大に、茶殻交換と急須清掃の簡便さが切り口の一つになるかもしれません。

 

原田製茶
原田製茶

蒸しグリもいいのですが、中国に発酵茶から後発酵茶までいろいろなお茶があるように日本でもいろいろなお茶が飲める喫茶などをたくさん作っていけたらな、と思っています。お茶をみんなでゆっくり飲んで話せるようなところができて、そのようなところに、いろいろなお茶が提供できるようになればと思っています。

 

松北園茶店
株式会社松北園茶店

私は、ティーバッグがキーワードと思っています。うちの百貨店の売り場でギフトを除いた毎日のデイリー商品を見ると売り上げの35%くらいがティーバッグになっているんですよ。それは現代の人の生活がそういうことになっていて。私もマグカップで飲んでるんですけど、急須でお茶を飲むことを求めることも大切なんですけど、それだけをやっていると、よりマイナーになっていってしまって業として残らないと思います。コロナで残念ながら日本国内はさらにデフレの方向になっていて、最近お茶屋さんの話を聞くと嘆きばかりになっています。スーパーでは、ティーバッグが52ピース298円の戦いになっていると聞きます。
おいしく感じてもらえるティーバッグをまじめにつくらないとダメだと思っている。そういう意味で萎凋系であったり、ほうじ茶であったり皆さんもやっておられるので、先輩もたくさんいらっしゃって、お金のとれるティーバッグを目指していくべきかなと思いますね。それがくれば、まだまだ日本茶も捨てたもんじゃないのかなと思います。美味しいだけじゃなく、香りなどの多様性をティーバッグできちんと見せることができればいいのかなという風に思います。

(司会 竹内:今後、そのような期待に添うように、ティーバッグの部門も必要になってくるかもしれませんので検討が必要になってきますね。)

 

お茶処しまだ
お茶処しまだ

ティーバッグの玉露も実はすごく人気があります。受賞した玉露のような昔ながらの文化的なお茶という路線も残さなくてはいけないと思っています。ティーバッグも良いのだけれども、こんなお茶もあるんだよということを人生で一回くらいは経験していただきたいというのもある。
玉露を淹れるときに網のない筋だけついているタイプの「ほうひん」を使うのですが、今の網がついている急須で淹れると網がはずれちゃったとか、網に汚れがついてないかしら?とか急須の問題が出てきます。私の使っているような「ほうひん」を使うと、茶葉もパンと捨ててさらっと洗って本当に楽なんですよ。お茶と急須を一緒に考えていかないといけないというのもひとつですね。ティーバッグも大切なポイントと思っていて、水にポンと淹れておいしく飲めるお茶、熱いお湯でおいしく飲めるお茶、レンジでお湯を作って、ポンと入れるだけでおいしいお茶も必要だと思います。お湯を冷まして淹れることは大事だけど、簡単に淹れても「おいしいじゃない日本茶って」というカタチのお茶を茶関係者が努力をして店頭に並べていくこと。そして、コロナ禍でホッとしたいと思う時に飲む場合は、伝統的なお茶が必要になると思いますが、いい加減なつくりの急須などでは使いにくいとがっかりしてしまうので、文化に関わる部分はきちんとやっていくことが大事になります。これからは、文化としてのお茶と日常の生活で飲むお茶と両方が大切だと思います。
また、消費者の皆さんに、親切に細かく伝えていく努力をしていかなくてはいけないと思います。

 

<司会 竹内(日本茶AWARD東京事務局)>
皆さんのお茶への愛情をたくさん感じることができました。今後もお茶と消費者の皆さんをつなげる橋渡しとなるよう日本茶AWARDを盛り上げていけるよう精進します。今日は長時間にわたりありがとうございました。

 

▶︎第1回目 日本茶AWARD出品者(受賞者)へのZoomインタビュー 

▶︎第3回目 日本茶AWARD出品者(受賞者)へのZoomインタビュー 

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